People 三浦菜穂子さん マレーシアの達人

タイ、ベトナム、インドネシア、シンガポール、台湾など、東南アジアをバックパッカーで旅する三浦菜穂子(ナオ)さん。意外にもマレーシアに向かったのは、旅をするようになって、何年か後のことだったという。タイ行きのチケットを調べていたら、マレーシア行きの方が安かったので“なんとなく”購入したのがきっかけ。この“なんとなく”が、彼女の人生を大きく変えた。今では、マレーシア渡航歴17年。訪れた回数は40回以上を越え、のべ日数は約450日。旅行だけで、なんと1年半以上もマレーシアに滞在した計算になる。ガイドブックには載っていない小さな田舎町を訪れ、そこに暮らすマレーシア人、ごはん、風景を写真や体験談を通して伝えることを大事にしている。今、日本でいちばんマレーシアとともに生きている人物といっても過言ではない三浦菜穂子さんに「マレーシアごはん」の魅力を聞いた。(2015年5月12日


気温30度を超す日に熱々のテタレ。マレーシアの洗礼をうける

音: 初めて食べたマレーシア料理は?

ナオさん: ロティチャナイとテタレ。ペナンの露店で。「テタレ」(※練乳入りのミルクティー)が湯気が立つほど熱々のドリンクでびっくり。こんなに暑い気候なのに。とにかくひたすら暑かった食事、というのがマレーシアごはんの最初の思い出です。

左より。最初のロティチャナイではないけれど、2000年にランカウイで食べたロティチャナイ・ピサン(※バナナ入りのロティチャナイ)。2003年、マレー半島東海岸の小さな島カパス島にて。数カ月マレー半島を旅した後で小麦色の肌

音: いちばん好きなマレーシア料理は?

ナオさん: ナシレマ!(即答) 行くたびにナシレマ(※ココナッツミルクで炊いたご飯に、チリソースを混ぜて食べる料理)を食べるので、ナシレマの思い出は数限りなくあります。

ナシレマ初体験は、ランカウイのパサマラム(夜市)で食べた持ち帰り用の三角ナシレマ。当時は中に何が入っているかわからずに購入し、車のなかでおそるおそる開いたら、白いご飯と辛そうな真っ赤なソースがどーんと。スプーンが無くて仕方なく手で食べたのですが、それがもう驚くほどおいしくて! 「おいしい!」と思わず叫んでしまったぐらい衝撃的な味でした。

マレー鉄道でも思い出のナシレマがあります。ランチを買わずに列車に乗ってしまい、どうしたものかと困っていたら、車掌さんが自分たちのランチと一緒に買ってくれて、おごってくれたんです。あのナシレマもおいしかったな~。

左より。シンプルな三角ナシレマ。葉っぱを開くとこんな姿。バナナの葉っぱとココナッツミルクで炊いたごはんの香りのハーモニーが最高。マレー鉄道で車掌さんがおごってくれた三角ナシレマ。とってもお腹が空いていたので、包みを開く前からテンションが上がっていた。マレー鉄道の車窓より。マレー鉄道LOVEのナオさん

ナシレマが好きすぎて1週間に1度は食べないと禁断症状がでる

ナオさん: ブキビンタン地区のアロー通りに、朝だけ出る持ち帰り用のナシレマ屋台も好き。甘みの強いサンバルソースが好みの味で、バガディル(マッシュポテトをタピオカ粉につけて揚げたもので、コロッケに似ている)とカリカリの煮干しをトッピングすれば、至上最高の朝食に。どんな高級ホテルの朝ごはんにも負けません。マラッカの「カンポン・クアラティンギ」で食べたナシレマもすばらしかった。あれは友人のお父さんの手作りで、思い出したら、あぁ~また食べたい。

左より。田舎町クアラティンギで食べたナシレマ。ナシレマの基本の具はきゅうり、揚げた煮干し、サンバル、ピーナッツ、ゆで卵。卵が目玉焼きときもあるが、ナオさんはゆで卵押し。持ち帰り用のナシレマ(右の三角の包み)と持ち帰り用の飲みモノ。器用にビニール袋に入れられている。三角の包みを開くと、こんな感じ。ぐちゃぐちゃに混ぜて食べる

音: ナシレマのどんなところが好き?

ナオさん: 甘辛のサンバルソースとパラパラごはんの絶妙なバランス。あと、ゆで卵ですね。ゆで卵を見るとテンションが上がります。みんなもそうでしょう? 目玉焼きではなくて、あくまでもゆで卵。また、ナシレマは、一人で食べることもあるけれど、誰かと一緒に食べた思い出がとても印象深いのです。どこどこのナシレマ、と思いだすと、必ず思い出の“誰か”が頭に浮かんできます。マレーシアとマレーシア人との思い出は、ナシレマがセットのことが多いんですよね。このことも、私がナシレマをこよなく愛している理由のひとつです。

音: 日本でもよくナシレマを食べていますよね。

ナオさん: 都内のマレーシア料理店で食べたり、自分で作ったり。ときどきお弁当にして会社にも持っていきます。

音: 日本で手作りのナシレマ弁当を食べているのは、きっとナオさんとうしぞーさん(※カレーブロガー界のプリンス)がぐらいかな~(笑)。ナシレマ、私も好きです。多くの人が惹かれる理由は、ご飯から漂うココナッツミルクの甘い香りにあるんじゃないかな。香りってダイレクトに脳に刻まれるから、ココナッツミルクの香りを嗅ぐと自然にナシレマが頭に浮かぶぐらい、記憶に残ると思う。また、白いご飯、赤いサンバル、緑のバナナの葉、という白・赤・緑の多彩な色の見た目もインパクトがありますね。同じ配色なのは、あ、イタリアの国旗だ! イタリアはナシレマカラーですね(笑)。見た目と香りで、私たちはナシレマの虜になるのだと思います。

溶けて固まって溶けて固まって。危険な負のスパイラル

音: さて、マレーシアでこれはまずかった、という体験も聞きたい。

ナオさん: ナシチャンプルの店で食べた牛肉のレンダン(※ココナッツミルクで煮込んだ牛肉料理)。これはゴム?!というぐらいに硬くて噛みきれなかった。きっと美味しくないルンダンを食べてしまったのよね…。ルンダンはナシレマと同じくらい大好きなので、最近ではおいしいレンダンの見分け方も覚え、もりもり食べています。

あと、マレーシア料理ではないけれど、マレーシアの小さなスーパーで買ったアイス。あれは超まずかった。原型をとどめていないほど溶けて固まって溶けて固まってを繰り返し、マンゴー味なのかパッションフルーツ味なのかさえもわからない。当時は貧乏旅行だったので、節約するために1日2食だったんです。その状況のなかで買ったアイスクリームだったので、ショックを通り越して、怒りがふつふつと。10年以上前のことなのにこんなに怒りを思い出せるなんて、食べものの恨みって怖いですね~(笑)。

音: マレーシアは暑い国なので、スーパーの冷凍食品は要注意ですね。日系のスーパーでは納豆が買えるのですが、納豆もナオさんのアイスと同じ現象で、残念ながら食感はパサパサ、味も抜けていて日本のものに比べると味は落ちます。食べられるだけでもうれしいけど、冷蔵や冷凍が必要な食材の保管や輸送方法の改善は必要かも。聞いたところによると、魚もマレーシアの漁港で水揚げされたときは新鮮なのに、輸送の間にダメになってしまう。輸送方法がきちんと整備されれば、マレーシア産の新鮮な刺身が食べられるそうです。

ナオさん: 音さんも食べものの失敗談はありますか?

音: あります、あります、ありすぎます(笑)。マレーシアの部屋のテーブルにパンを置いていたら、無数のアリがたかっていた黒ごまパンになっていたり、ナシゴレンを1日常温で保管したら、あっという間に腐って糸をひいていたり(最初、わからなかった)。それがきっかけで、調味料も乾物も油もすべて、冷蔵庫に保管するようになりました。

食べ物にこだわる。それはマレーシアに出会ってから

マレーシアの長くのんびりとした夜は、パサマラ(夜市)に行くことが多い。カラフルなジュースや珍しいマレーシアごはんが食べられる。ナオさんはマレーシアの夕陽が大好き。2013年、1泊3日で行った弾丸マレーシア一人旅では、ポートディクソンでマラッカ海峡の夕陽を眺めた

音: ナオさんはもともと食いしん坊?

ナオさん: 食べることは好きです。高校生のころから、弟と一緒によく料理をしていました。でも、こんなに食にこだわるようになったのは、マレーシアと出会ってから。それまでは、旅先で名物料理を食べることぐらいで、まさか、ご飯を食べるために、その土地に行くとは思っていなかった。

私のもともとの旅のスタイルは、ひとりで街を歩いて、写真を撮って。ご飯はお腹が空いたら食べよう、というぐらいの感じでした。ところがマレーシアでは、地元の人がほっといてくれない。町を歩いていると、いつの間にかマレーシア人が寄ってきて、「どこから来た?」「あれは行ったか?」「ここに行くといいぞ」と話しかけてくれる。なかなか先に進めないんです(笑)。とくに屋台は激しい(笑)。ほぼ100%の確率で話しかけられて「これを食べてみろ」「あれがおいしい」「あの店がおいしいから連れていってやる」とひとりにしてくれません。どんどん話が盛り上がって、おいしいお店に連れていってくれたりもする。おかげで、本当においしい食事を味わうことができました。

そういう旅の思い出から、気がつくとマレーシアが大好きになって。あの料理がまた食べたい、と思いマレーシアに通うようになっていました。マレーシアごはんが好きなのは、私に話しかけてくれたマレーシア人たちとの思い出があるからです。

クアラ・トレンガヌのクリスタルモスクでかわいいマレー女性とお友達に。「マレーシアが大好き」とマレー語で話すと、目を輝かせてくれた。マレー系マレーシア人は、最初はハニかみ笑顔で控えめだが、こちらがマレー語で接すると一気に距離が縮まり、素敵な笑顔を見せてくれる

なまこクリームで湿疹がおさまった!

音: ナオさんは胃腸は丈夫な方ですか?

ナオさん: かなり丈夫です。インドでもお腹を壊さなかったぐらい。だから、マレーシアで屋台を選ぶときも、清潔かどうかは判断基準に入っていません。タライのうす汚れた水で皿を洗っていてもOK!

音: おいしい屋台を見つけるコツは?

ナオさん: お客さんのいない店には入らない。食材の回転が悪いし、なによりお客さんがいないと作っている人のやる気が出ない。

音: やる気、大事ですね。おいしい料理を食べて欲しいという気持ちが、おいしさを生む。

ナオさん: 胃腸は丈夫なのですが、果物全般にアレルギーがあって。果物の酵素に反応するみたいで、マンゴーやドリアンを食べると口の中がムズムズしてしまう。あと、肌も弱くて、日光には要注意。日に当たると湿疹ができて痒くなります。こんなにマレーシアが好きなのに困ったもんです。あっ、でもそういえば、この前、現地でなまこクリームをつけてみたら、すぐに治ったんですよ。なまこクリームは万能薬です。

幼い頃のアイデア和食。初めての海外で新しい自分に

音: 日本の食生活を教えて下さい。

ナオさん: カレーやルンダン(牛肉や鶏肉をココナッツミルクで煮込んだマレーシア料理)を大量に作って2週間ぐらいずっと食べ続けています。飽きないかって?いえ、飽きませんよ。会社にもお弁当で持っていきますよ。私のお弁当はそうとうマニアック。ナシレマやサンバルソースが入っていて、電子レンジでチーンとすると、かなりのエスニック臭なので、周りの人はびっくりしているかも(笑)。ランチでアジア料理を食べると、すごくリフレッシュできるんです。仕事モードからの息抜きです。

左より。ある日のナオさんのお弁当。チキンルンダンとナシトマト風のごはん。マレーシアの友人宅でサンバル作り。マレーシアを訪れると、マレーシア人、日本人問わず、たくさんの友人にお世話になっている

 

音: 子供のころはどんな食生活だったのですか?

ナオさん :わが家は和食中心でした。でも、いわゆる普通の和食ではなく、母のアイデアが加わったものが多かった。たとえば、ミートソースのスパゲティをフライパンで炒めて、かた焼きそばのようにしたり。母がルーから手作りしていたシチューは市販のものとはずいぶん味が違いました。正直、そんなに無理にアレンジしなくてもいいよ、と思う料理もあったけど(笑)。ただカレーは絶品で、今でもカレーは母のレシピです。そういう家庭環境だったからなのか、外国での初めての味に抵抗感は全くありませんでした。むしろ興味がありました。

音: 旅をスタートしたきっかけは?

ナオさん: 大学生の頃です。家にいると息苦しくて、旅に出るようになりました。自分だけの時間を持ちたかったし、自由になりたかった。私はもともと人と関わるのが得意な方ではなく、小学校の休み時間はいつも図書館にいたタイプ。本をよく読んでいて、本の中で見た外国にずっと憧れがありました。初めて行った外国は香港。18歳の時でした。その頃から、ひとりで街を歩いても怖くなかった。日本では人見知りなのに、なぜか海外ではどんどん中に入っていけたんです。

音: ナオさんといえば、素敵なマレーシアの民族衣装のコレクション。前から洋服に興味がありましたか?

ナオさん: 好きでした。幼い頃におばあちゃんが作ってくれた花柄のワンピースがすごく好きだった。合唱団に入っていて、ミュージカル公演ではワンピースの衣装が着たくて役を選んだりしていましたね。それも、華やかな色合いの花柄のワンピースだったな。まさにバジュですね。

左より。バジュ・クロンのコレクションはカジュアルからフォーマルタイプまで40着以上。日本で一番のバジュ・クロンコレクターかも! マレーシアの各地で買い求めたバジュ・クロンの数々。デザイン、サイズとも一点ものがほとんどなので、気に入った時は即購入が鉄則

音: ナオさんの話しを聞きながら、今、興味のあることは、過去からつながってきている。そして、今、好きなことを大事にするということは、過去のじぶんを大事にすることなのかもしれない、と感じました。まだまだ話し足りないので、この続きは近いうちにおとどけします。


音の感想: 何度も何度もマレーシアを訪れ、路線バスに乗り、モスクで友人をつくり、猫にカメラをむけ、屋台で麺をすすり、海辺で夕陽を眺めた。そんな旅をくりかえし、ナオさんはマレーシアの達人となった。それでもマレーシアへの興味はまだ尽きない。現在は「マレーシアごはんの会」の事務局メンバーとして、イベント企画、運営を担当してくれている。そんなナオさんに私が聞いてみたかったのは、マレーシアに心を動かされた根っこの理由。それは、子どもの頃の思い出であり、子どもの頃に感じた疑問であり、それを取り払ってくれる何かだった。うまく言葉にできないけれど、今を大事にしている人は、過去のじぶんにもしっかり向き合っている人なのかも、と感じたインタビューでした。

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